「社長だけが忙しい」を脱却する「仕事の見える化」という解決策

サマリー

ベンチャー企業や中小企業でよく見られる「社長や一部の社員だけがいつも忙しい」という状況。この根本原因は、社員のやる気や能力不足ではなく、「仕事が見えない」ことにあります。仕事の見える化を実現することで、チームワークが発揮され、組織としての力が飛躍的に向上し、利益向上やビジネスモデル変革(DX)にもつながります。

「社長だけが忙しい」のは社員のせいではない

「ウチの社員は気が利かない。もっと自分から動いてくれるといいんだけど...」

こんな悩みを抱える経営者の方は多いのではないでしょうか。実際、多くのベンチャー・スタートアップ企業で以下のような状況が見られます。

  • 社長や一部の社員に仕事が集中しがち
  • 他の社員からは、何が起きているか分からない
  • 助けようがないので、社員は言われたことだけやるように
  • 外部の力を借りたいが、助けてもらいづらい
  • 結果、社長がずっと忙しい

なぜ「見えない仕事」が組織の成長を阻むのか

中小企業の強みが裏目に出る構造

中小企業やベンチャー企業の強みは「柔軟な専門化」にあります。ひとりの人が複数の仕事をこなす(多能工)ことで、迅速な対応と効率性を実現させています。しかし、この強みは裏返すと、仕事が「属人化しやすい」という弊害に直結します。

よくある状況としては、

  • 営業、仕入、現場、顧客サポートを社長がすべて担当
  • 人事、経理、総務、施設・ITなどもひとりが兼務
  • 社員は全員、「現場作業」にかかりきり

では、人数が増えたら解決するかというと、増えたら増えたで

  • 部署間に壁ができる
  • 情報共有が困難になる
  • 結局、全体を見ているのは社長だけ

という状況になりがちです。

「見えない」ことで生まれる悪循環

なぜこのような状況になるかといえば、その最も大きな問題は、何が起きているかが分からなければ、助けようもないからです。

社長や忙しい人からすれば、

  • 「社員は気が利かない」
  • 「もっと主体的に動いてほしい」

と思うかもしれませんが、社員の視点から見ると

  • 「何をやっているのか、なんであんなに忙しそうなのか、さっぱり分からない」
  • 「何をしたらいいのか分からないし、足手まといになりそう」
  • 「大事な仕事だろうからミスしたら大変だ」
  • 「ヘタに手を出すよりも、頼まれてから手伝う方が良さそう」

と感じてしまうのです。社員は、良かれと思って手を出さないようにしているのです。

ただでさえ人手不足なのに、社員が手伝いたくても手伝えないわけです。これは非常にもったいない状況です。

中小企業こそ「外の力」を借りる必要がある

中小企業やベンチャー企業の勝ちパターンは、「自社の強みを研ぎ澄ます」と「外の力を借りまくる」の組み合わせです。人が少ないからこそ、外部の専門家、パートナー企業、フリーランス、システムやツールなど、あらゆる「外の力」を活用する必要があります。

「外の力」を借りにくい会社は競争上不利になります。なぜなら、外部の人が助けるために必要な「文脈・背景理解」が困難だからです。

外の力を借りにくい状況の例:

  • 今日の予定は現場にいかないと分からない
  • 大事な情報は現場に(だけ)ある
  • 仕事のやり取りは現場に来ないと分からない
  • 仕事のノウハウやポイントは現場に(紙で)貼ってある
  • 予定は常に臨機応変、その場で決まる

このような状況では、「全部、現場で口頭説明」が必要になり、双方にとって負荷が高すぎて、結果的にうまく助けられません。

仕事が「見えない」ことで起きている弊害(まとめ)

改めて整理すると、仕事が見えないことで以下の問題が発生しています:

  • 社長や一部の社員に仕事が集中しがち
  • ほかの社員からは、何が起きているか分からない
  • 助けようがないので、社員は言われたことだけやるように
  • 外の力を借りたいが、助けてもらいづらい
  • 結果、社長がずっと忙しい

つまり、組織内のリソースも、外部のリソースも、十分に活用できない状態に陥っているのです。

今いる社員が動けるようになる「見える化」の進め方

この状況に対して、「社員に任せよう!」「人を増やして分業しよう!」という解決策を取ろうとしてもうまくいきません。それができるなら、とっくにやっているでしょう。かといって、良い人材を採用するのは難しいでしょう。また、今の社員にも任せられないことを、新たに採用した人に任せるのも現実的ではありません。

「仕事の見える化」という現実解

社長や一部の社員だけが忙しいという状況を脱するためには、まずは今いる社員たちが「わかる・手伝える」状態にすることが第一歩です。そのために必要なのが「仕事の見える化」なのです。

仕事を見える化することの直接的な効果は、

  • 業務の効率が良くなる
  • 利益が増える
  • ビジネスモデルの変革(DX)ができる

ですが、本当の効果はその先にあります。

仕事を見える化することで、

  • チームワークが発揮され、組織としての力が高まる

のです。

日本企業特有の仕事スタイルがDXを阻んでいる

しかし、多くの日本企業が仕事を見える化できていません。その背景には、日本型経営の特徴である以下の要素が、デジタル化を困難にしているからです。

終身雇用、年功序列、企業内組合という、かつて日本型経営の三種の神器と呼ばれた慣習が、いまだに仕事の進め方やスタイルに色濃く反映されています。

  • 「聞けばすぐにわかる」環境
  • 上司や先輩を「見て学ぶ」スタイル
  • 「長い期間をかけて経験を積む」ことを重視
  • 経験を積むために「職種を変えながら異動していくのは当然」という文化

これらの結果、仕事が「定義」されていない状態が生まれます。

しかし、定義されていない仕事はデジタル化できません。DXの前提となるデジタル処理のためには、「インプット→処理(プロセス)→アウトプット」の定義が必要だからです。

見える化とは、仕事を定義すること

デジタル化するためには、仕事を定義する必要があります。具体的には、

  • だれが、いつ・いつまでに、なにを、どのように(いくらで、どれくらい)やるのか
  • どんな目標・ゴールに責任を持ち、どこからどこまでの範囲を受け持つのか

を明確にします。

仕事を「見える化」するとは、仕事を定義し、デジタル化できるようにすることです。だから、仕事の見える化はDXの第一歩と言えるのです。

ところが、仕事(業務プロセスやデータ)を見える化しようと思うと、極めて高度な分析スキルや経験が求められます。そのための期間も費用も労力もバカになりません。しかも、継続的なアップデートも必要です。

仕事の3大見える化対象

では、どうすべきか。その前に知っておきたいのが、見える化すべき「仕事」とは何かです。見える化すべき仕事は、この3つです。

  1. 社内外とのやり取り(コミュニケーション)
  2. 会社の予定、個人の予定
  3. 会社やチームの目標と、そのためにやること

個別具体的な業務をひとつひとつ見える化していくよりも、このような組織の基盤となる情報を見える化していくことの方がインパクトが大きいのです。個別の業務を見える化したところで、これらが見える化されなければ、社長だけが忙しい状況は変わらないのです。

デジタルツールが「見える化」を助けてくれる

テクノロジーの進化によって、複雑な分析をせずとも、仕事を見える化できるようになってきました。ツールを利用していくだけで、大事な情報や仕事のノウハウが勝手にデジタル化されるようになるのです。

社内外とのやり取り(コミュニケーション)では、多くの企業で社外とのやり取りはすでに電子メールという形で電子化されています。問題になりやすいのは、社内のやり取りです。社内の見える化を助けてくれるデジタルツールとしては、ビジネスチャットが挙げられます。

会社の予定、個人の予定については、カレンダー機能を含むグループウェアが活用できます。

そして、会社やチームの目標と、そのためにやることをデジタル化するには、ExcelやPowerPointよりも、プロジェクト管理やタスク管理ツールを利用する方が良いでしょう。

分析不要で日々の仕事を見える化する方法

デジタルツールを利用することで、かつては必要だった高度な分析や、膨大な労力が不要になります。日常的にツールを使っているだけで、勝手にデジタル化されていくのです。

日々のやり取りをビジネスチャットでやる → 大事な情報や仕事のノウハウが勝手にデジタル化される

会社や個人の予定をカレンダーに入れておく → だれが、いつ、どこで、何をしているかが勝手にデジタル化される

日々やることをタスク管理ツールに入れておく → だれが、いつまでに、何をやるべきなのか、今何をしているかが勝手にデジタル化される

見える化の効果:組織が変わる4つのメリット

仕事の見える化ができれば、「社長だけが忙しい」状況を脱することができます。

Before(見える化前):

  • 社長や一部の社員に仕事が集中
  • 他の社員は何が起きているか分からない
  • 助けようがないので指示待ちになる
  • 外部の力も借りにくい

After(見える化後):

  • 効率が高まる - 無駄な確認や重複作業が減少
  • 利益が増える - リソースの最適配分が可能に
  • ビジネスモデルの変革(DX)につながる - デジタル化の基盤が整う
  • チームワークが発揮され、組織としての力が高まる - 全員が状況を把握し主体的に動ける

見える化を成功させるパートナーの選び方

ITツール選びの隠れたポイント

ところで、あまり知られていませんが、ITツールにはおおきく2種類あります。

  1. 特定の業務を効率化するツール(経理システム、販売管理システムなど)
  2. 組織の基盤となるツール(勤怠管理システム、情報共有ツールなど)

ツールの種類によって、選び方のポイントはまったく違います。

  • 特定業務ツール → 自社業務との相性
  • 組織基盤ツール → 全員が使えるのか

この違いを知らずに、特定業務ツールに強い人に、組織の基盤型ツールのアドバイスを求めると、的外れなアドバイスをもらうこともありますので、注意してください。

組織の基盤型ツールを導入する時の考え方

選ぶフェーズ:現場の人中心にトライアルする

導入フェーズ:ITに強い人中心に作戦を立てる

組織の基盤型ツールを導入する際は、ITに強い人には「導入」フェーズで活躍してもらい、ツール選択は実際に使う現場の人の意見を重視することが成功の鍵です。

ツール導入だけで終わらせないために

仕事の見える化は「分析不要で日々の仕事から始められる」一方で、組織全体で継続的に運用し、真の効果を発揮するには適切なガイドが必要です。

多くの企業が陥りがちなのは、

  • ツールを導入したが活用されない
  • 一部の部署・メンバーでしか使われない
  • 継続的な改善ができない
  • 本来の目的を見失い、導入・普及が目的になってしまう

というパターンです。

特に、組織全体へ波及させるときのポイントは、長年の研究によりすでにかなり明らかになっているのですが、いまだに多くの企業が「一部の社員しか使っていない」「社員の抵抗が強い」といった悩みを抱えています。ITツールの導入とは一種の「組織変革」です。ですから、ツールに詳しい人ではなく、組織変革のノウハウをもったアドバイザーが必要なのです。

外部の伴走型アドバイザーを活用することで、

  • 客観的な視点での現状把握と課題整理
  • 豊富な経験に基づく経営の意思を反映した導入計画
  • 継続的なサポートによる組織全体への定着支援
  • 目的を見失わない戦略的な運用サポート

を実現できます。

組織変革理論を使ったITツール導入のポイント解説記事はコチラ

その進め方で本当に大丈夫?ITツールの社内展開には組織変革の定石を使おう!

まとめ

DXへの第一歩として、仕事の「見える化」をはじめましょう。

重要なのは、「社長だけが忙しい」状況の根本原因を理解することです。これは社員の能力やモチベーションの問題ではなく、仕事が見える化されていない、という構造的な問題だということです。

そして、中小企業やベンチャー企業が勝つためには、「自社の強みを研ぎ澄ます」と「外の力を借りまくる」の両輪が必要です。そのためにも、社員が動きやすく、外の力も借りやすくする「仕事の見える化」が不可欠です。

ですから、仕事の見える化が欠かせないのです。

解決の第一歩は

  • 3大見える化対象(やり取り、予定、目標とやるべきこと)から始める
  • 分析は後回し、まずは日々の業務をデジタル化する
  • 組織変革のセオリーを使って組織全体に展開していく

継続的な成功のためには、適切なパートナーと共に取り組むことが重要です。ITツールを導入するだけなら簡単ですが、見える化を組織に定着させ真の効果を発揮するには、経験豊富な伴走者のサポートが大きな価値を発揮します。


本記事は、実際の中小企業・ベンチャー企業へのご支援経験をもとに執筆しています。仕事の見える化やDX推進についてのご相談は、お問い合わせページからお気軽にご連絡ください。