スタートアップや新規事業立ち上げの根幹「バリュー・プロポジション」

  • マーケティング施策ごとに訴求ポイントを考えているが、いつも他社と似たような文言になってしまう。
  • 製品・サービスのマーケティング施策をいろいろやっているが、以前のような成果が出なくなってきた。
  • もっと根本的な「戦略」のようなものが必要な気がするが、どうすればいいかわからない。

こんな悩みをお持ちの方に理解していただきたいのは、バリュー・プロポジションを定義することの重要性です。

バリュー・プロポジションという言葉を聞いたことはあるが、いまひとつよくわからないと思っている人は多いのではないでしょうか。バリュー・プロポジションこそマーケティング戦略の要であり、これを定義しなければ、どんなに個別の施策を頑張っても、継続的に成果を上げることはむずかしいでしょう。

社内の認識は驚くほどズレている

例えば、私が支援しているお客様には、こんなことをやっていただく場合があります。

私が用意する穴埋め式のフォーマットに沿って、キーメンバー全員に先ほどの3つのポイントを書いてもらいます。キーメンバーとは例えば、社長とビジネス部門責任者、開発責任者といった経営層、リーダー層の方々です。

書いてもらう内容は、①自社がターゲットとしている顧客セグメント②その顧客セグメントが持つニーズ③製品・サービスが提供する価値、です。

たったこれだけの内容を、同じフォーマットで書いてもらったにもかかわらず、想像以上にバラバラな回答となることが多いのです。社内の経営層、リーダー数人であっても、こういうことが起きます。

社内の関係者でも、見ている顧客が違い、製品・サービスの捉え方やどこに価値があると考えてるかが違うわけですから、市場や顧客にメッセージが伝わるわけはありません。むしろ、この状態で成果が出る方が不思議です。

必要なのはバリュー・プロポジションを定義すること

こんなときにやるべきは、効果の出る施策を探すことでも、個別の施策を最適化することでもありません。本当に必要なのは、マーケティング戦略、とりわけ自社製品・サービスのバリュー・プロポジションを定義することです。

マーケティング戦略、バリュー・プロポジションを定義できることは、マーケティング戦略の根幹をつくるのと、ほぼ等しいと言えます。バリュー・プロポジションという共通言語があれば、社内でも議論しやすくなります。外に「答え」を探すのではなく、自分たちにとっての最適解を自らつくれるようになります。

バリュー・プロポジションに必要な要素は3つです。

①自社製品・サービスにとって、狙うべき顧客はどんな人(会社)なのか

②その顧客はどんな困りごとを抱えているのか

③その人たちは製品・サービスのどこに価値を感じて買ってくれているのか

これらを定義し、言語化して文章として表現していきます(実際には、それぞれの要素をもう少し分解して考えます)。

バリュー・プロポジションは、言語化して文章としてまとめますが、キャッチコピーではありません。バリュー・プロポジションの文言をそのままマーケティング施策で使うわけではなく、これを骨子として個々の施策ごとに適切な表現方法を考えていくことになります。施策やキャンペーンごとに毎回新しいことを考えるのではなく、常にバリュー・プロポジションをベースとして個々の施策を考えていくことで、文言やクリエイティブが変わっても、同じ顧客層に同じメッセージが伝わるようになるわけです。

なお、いつからか「バリュー・プロポジション・キャンバス」というフレームワークが出てきたようですが、私は20年ほど前から上記のやり方を続けており、今のところ困っていないため、キャンバスは使っていません。

バリュー・プロポジションが戦略に一貫性をもたらし、組織を結束させる

戦略で一番大切なことは結束力(cohesiveness)とMBAの最初のクラスで教わったときは、『え、そうなの?』という意外感とともに、『でも確かにそうかもな』という妙な納得感があったのをよく覚えています。もう20年も前のことですが。

20年ほどの経験をあらためて振り返ってみても、事業がうまく進んでないときは、たいていチームが結束できていません。みんなが少しずつ違うことを考え、違う方向を目指しています。

すると、顧客やステークホルダーに伝わるメッセージに一貫性がなくなります。同じことを何度も何度も伝えてようやく伝わるかどうかという世界で、バラバラなメッセージを発していては一生伝わりません。だから成果も出ません。しかも決して悪気があるわけではなく、全員が「成果を出そう。そのためには、こっちの方が良いはずだ!」と思ってやってるから、さらに厄介です。

バリュー・プロポジションを構成する3つの要素について、社内で認識が合っていれば、特定の施策のときだけ、マーケティングチームだけが、特定のメッセージを訴求する、なんてことにはなりません。

バリュー・プロポジションが社内で明確に言語化できていれば、施策のアイディアも出しやすくなりますし、個々の施策についてGo/No Goの判断もしやすくなります。

継続的に、同じ意味のメッセージが繰り返し繰り返し、ターゲット顧客に伝えられるようになります(まったく同じコピーという意味ではありません)。さまざまな形で、何度も伝えるから、必要なタイミングで想起してもらえるようになります。

マーケティングと同じメッセージを、営業でも受注後も伝えられるようになるから、顧客の期待値がズレることはありません。顧客の期待値が合っていれば、カスタマーサクセスが実現しやすくなります。

つまり、戦略の一貫性が保たれ、組織が結束した状態になります。戦略に一貫性があり、組織が結束していると、成果につながります。うまくいった事例を紐解くと、さまざまな要素がパズルのようにピタリと合わさっていたり、組織が一枚岩になる出来事があったりします。

戦略の一貫性、組織の結束力をもたらすものが、バリュー・プロポジションなのです

力を一点に集中させたいときこそバリュー・プロポジションが必要になる

スタートアップがPMFを目指すとき、大企業が新規事業を立ち上げるとき、中小企業がもう一段階事業を成長させたいとき。まったく違うこれらの状況で、共通して必要なのは、限られたリソースを一点に集中させ、現状を突破する必要があること。力を集約させる必要があることです。

スタートアップであれば、人が足りない、お金も足りない、ブランド認知もない、使える流通チャネルもない、そして急ぐ必要がある。こういう状況です。人数が多い組織であってもリソースが潤沢とはかぎりません。大企業で新規事業を立ち上げようとすると、少数意見を通していく必要があり、その方向で良いのか多くの人が疑っている状況です。だから、味方は少なく、お金をふんだんに使えるわけではない。そういう状況です。

リソースが限られているのだから、力を集約させ、結束している状態、外へのメッセージに一貫性がある状態をつくらなければ、現状を突破できないわけです。例えるなら、大きな石を転がすときのようなものです。もっとも力が必要なのは転がし始めるときなので、最初に力を集約させる必要があります。一度転がり始めたら、そのあとは押す人と軌道修正する人にわかれた方がうまく進みますが、転がっていないときに役割分担しても意味がありません。

分業ではなく、ひとりが組織横串のインプリに責任を持つ

バリュー・プロポジションは誰がつくっても良いと思いますが、ポイントは分業にしないことです。CEO、プロダクト責任者、プロダクトマーケター、カスタマー責任者。誰でもかまいませんが、必ずひとりが組織横串でのインプリ(実行)に責任を持つ体制が望ましいです。

バリュー・プロポジションの定義は、非常に重要な仕事であるにもかかわらず、なかなか進まなかったり、中途半端な状態で放置されたりすることが多いようです。それは、責任者がいないからです。社長がやると決めたら、きちんと経営メンバーにチェックしてもらうなり、経営会議で進捗共有するようにしましょう。社長がやらないなら、だれが責任者なのかを明確にしましょう。

製品・サービスの価値を決める大事な仕事です。責任者がいないなんて、おかしいですよね。しかも、バリュー・プロポジションは一度作ったら終わりではありません。継続的に顧客からのフィードバックを収集し、ブラッシュアップしていく。施策を実行する体制よりも、このプロセスを実行する体制をつくることの方が、長期的には高い効果を生み出します。

バリュー・プロポジションはどうつくればいいのか

バリュー・プロポジションをつくるためには、いわゆるSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)と呼ばれるステップを丁寧に進めていきます。

①市場と顧客を知り(セグメンテーション)、②自社が狙うべき顧客セグメントを決める(ターゲティング)。③その顧客セグメントがどこに価値を感じているかを知り、④顧客の言葉を活かして言語化する。

残念ながら、多くの大企業では、マーケティング施策を実行する機会はたくさんあっても、戦略の根幹となるバリュー・プロポジションを定義したり、STPをイチからやる機会はあまりありません。そのせいか、経験あるマーケターであっても、スタートアップや新規事業立ち上げという重要な局面でも、本来やるべきことを飛ばしてしまうようです。「リード獲得するにはどの方法が良いのか」「この施策を効率的に回すにはどうすれば良いか」という短期的な視点に偏りがちなのです。

繰り返しますが、それでは成果につながりません。仮に短期的には成果を出せたとしても、継続的な成長に結びつきません。

長期的な成長のためには、深い顧客理解にもとづいて戦略を立て、実行していくことが欠かせません。そのために、上記のステップを丁寧に進めていき、バリュー・プロポジションに必要な3つの要素を定義していきます。

  • 自社製品・サービスにとって、狙うべき顧客はどんな人(会社)なのか
  • その顧客はどんな困りごとを抱えているのか
  • その人たちは製品・サービスのどこに価値を感じて買ってくれているのか

実際に進めていくと、顧客の定義でつまづく場合もあれば、課題の解像度が低い場合も、顧客価値がうまく整理できない場合もあります。うまくいかない理由は得てして社内の体制や経験不足といった内部要因が多いものです。内部要因であれば、むしろ自分たちで解決できますし、それを解決すれば実行できるということです。

とはいえ、社内体制の問題を中から解決するのはむずかしいでしょう。そういうときは、第三者の力を使うことをおすすめします。外の視点を持ち込むことで、中の人では取り組みにくかった問題が解決しやすくなることはよくあります。社内だと対立構造になりやすいところを、外の人間が入ることで課題が整理され、議論しやすくなります。課題が整理されれば、部門間の議論ではなく、課題に対する議論にシフトできます。

もし、外の力が必要でしたら、ぜひ弊社へご相談ください。