3年目ベンチャー経営者に伝えたい 組織づくりや仕組み化をはじめる前に確認しておきたいポイント
事業を立ち上げて約3年、ここまで何とか手探りでやってきた。
曲がりなりにもある程度の売上が立つようになった。
けれど、自分ひとりで全部見るのはそろそろ限界だ。
組織づくりや仕組み化を進めるタイミングだと思う。
このような状況の方からご相談をいただくことがあります。
ですが、お話しを伺い、一歩深掘りしてみると、組織づくりや仕組み化の前にやるべきこと、決めるべきことがあることに気づいていただけます。また、早すぎる組織化・仕組み化には弊害があることをご理解いただけます。
組織づくりを検討する中でこの記事にたどり着いた方には、組織づくりや仕組み化を進めるべき適切なタイミングを理解し、うまく組織づくりに進んでいただけるよう、ポイントをお伝えしたいと思います。
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早すぎる組織づくりや仕組み化は、なぜいけないのか
組織づくりについてお話しする前に、早すぎる組織づくりや仕組み化がなぜ危険なのかをお伝えします。
スタートアップの世界には、「プリマチュア・スケーリング(pre-mature scaleing)」という言葉があります。直訳すると「成熟する前の拡大」となり、本来達するべき成熟度に達していないにもかかわらず、性急に拡大してしまうことを指します。
そして、ここでのスケーリング・拡大とは、組織的な拡大や費用の増加を指します。当たり前ですが、事業(売上・利益)が拡大することには何の問題もありません。
本来達するべき成熟度に達していない段階で、組織づくりを性急に進めたり、費用を増やしても、成果につながりません。むしろ、時間とお金を無駄に浪費することになってしまいます。特に、間違った採用は会社への時間的・金銭的ダメージだけでなく、メンバー全員にとっての精神的ダメージ、そして本人にとってのキャリア的なインパクトも大きく、小規模な組織としては避けたい事象です。
ですから、事業が一定の規模になり、「そろそろ組織や仕組みに取り掛かってもいいかな」と思ったら、一度立ち止まって冷静になってほしいのです。本当にその段階まで達したのか、実はまだ早いのか、チェックしてほしいのです。
「組織づくりのポイント」を検索しても組織づくりのポイントは分からない
組織づくりを始めるにあたって何に気をつければいいのか、確認したくなると思います。そう考えて、「組織づくりのポイント」を検索してみると、こんな内容が出てきます。
- 明確なビジョンと目標の設定
- 組織文化の構築と強化(Valueかな)
- 適切な組織構造の設計
- 人材の育成と配置
- コミュニケーションの促進(部門横断ミーティングの設定やオープンなコミュニケーション文化の醸成)
- 継続的な改善と評価
これはこれで間違ってないのですが、おそらく皆さんが知りたいのはもっと具体的な話でしょう。特に、組織構造の設計と人材の配置のところが知りたくなると思います。
そこで、組織構造を定義する要素が何かを調べてみます。
『【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ』(スティーブン P. ロビンス)によると、組織構造を定義する6つの要素として、以下の6つが挙げられています。
組織構造を定義する6つの要素
- 職務の専門化(分業):タスクをどこまで細分化して職務とするか
- 部門化:どのような基盤に基づいて職務を分けるか
- 指揮命令系統:各個人やグループは誰に報告するか
- 管理の範囲(Span of Control):マネージャーが効果的かつ有効に指揮下に置けるのは何人か
- 中央集権化および分権化:意思決定の権限は誰が持っているか
- 公式化:従業員およびマネージャーに対してどの程度の規則および規制を課すべきか
これらが決まれば組織構造が決まったことになる、という意味ではそのとおりでしょう。
ですが、きっと皆さんが知りたいことは、こういうことではないと思います。
何をもってこれらを決めるのか?
皆さんが本当に知りたいのは、何がどうなっていたら、細かく分業した方がいいのか?どういう状況なら、管理の範囲を狭めた方がいいのか?という、組織の構造を決める要素、判断軸だと思います。
ところが、どんなに「組織づくりのポイント」を検索しても、その答えは見つかりません。
ところで、組織づくりのポイントとして以下のような「5つの原則」なるものが検索結果によく出てくるので、調べてみたのですが原典が見つけられませんでした。
- 専門化の原則
- 権限責任一致の原則
- 統制範囲の原則
- 命令統一性の原則
- 権限委譲の原則
代わりに見つかったのは、経営学者ファヨールの著書『産業ならびに一般の管理』(1916)で掲げられた「管理の14原則」でした。
- 分業の原則(専門化の原則に相当)
- 権限と責任の原則(権限責任一致の原則に相当)
- 規律の原則
- 命令一元化の原則(命令統一性の原則に相当)
- 指揮統一の原則
- 個人利益の全体利益への従属
- 報酬
- 集中化
- 階層組織(統制範囲の原則に関連)
- 秩序
- 公平
- 人員の安定性
- 創意
- 団結
先ほどの「5つの原則」はこれを原典に、どこかの実務家の方かコンサルタントか、場合によってはWebライターの方が考えたものかもしれませんね。
組織は戦略に従う
組織の構造を決める要素、判断軸は何なのか。
答えを先にお伝えすると、組織を決める要素は「戦略」です。
こう書くと、当たり前すぎて何の驚きも示唆も感じられませんが、どういうわけか「そろそろ組織づくりを」と考えるタイミングでは、別トピックと捉えてられてしまうのか、すっぽりと抜け落ちてしまうようです。もしくは、つい『戦略ならあるので、そこは大丈夫』と考えてしまうのかもしれません。
戦略は、事業ごとに異なるのはもちろん、状況によっても変化しますから、ユニークな(独自性がある)ものです。ユニークでなければ、競合に勝てませんから、今後の事業成長は見込めないでしょう。そして、事業成長が望めないなら(または望まないなら)、組織をつくる必要も意味もありません。
戦略は、組織や仕組み(プロセス、オペレーション)、テクノロジー(プロセス、ツール)の前に必要となるものです。戦略という言葉が大袈裟に感じる場合は、事業を伸ばすための作戦や方針と言ってもいいでしょう。
多くの方にとって、このような話に違和感はないと思います。
組織づくりの前に、戦略が明確かを確認する
では、戦略として何ができていれば、組織づくりに取り掛かっていいのか。どうなっていれば、戦略ができていると言えるのでしょうか。
戦略の定義はいろいろありますが、私たちがお客様を支援するときに確認しているのは、以下のような内容です。
市場と顧客についての質問例
- 市場をどのように定義しているか。ニーズベースで5つ程度にセグメントするとどのように分類できるか 【セグメンテーション】
- その中でどの顧客セグメントを狙っているのか 【ターゲティング】
- その顧客セグメントは、自社製品にどのような価値を感じているか 【ベネフィット】
- その顧客セグメントに競合ではなく自社製品を選んでもらうために、競合との違いをどのように位置付けているか 【ポジショニング】
事業構造と収益モデルについての質問例
- 事業構造はどのようになっているか。単一製品・サービスか、複数製品・サービスか。売上と利益の比率はどうなっているか
- どのような収益モデル(課金体系)で売上を上げているか
- どのようなコスト構造か
製品開発についての質問例
- 製品開発・強化のロードマップはどのようになっているか
- 製品・サービス強化への投資はどのように行われているか
- 顧客からのフィードバックをどのように収集し、製品開発や改善に活用しているか
プロセスとリソースについての質問例
- 顧客が認知してから価値を感じるまでのプロセスはどのようになっているか(プリセールスとポストセールス)
- 顧客獲得はどのようなチャネルでおこなわれているか
- 事業を回すための重要なリソースは何か
これらが決まらなければ、どんな組織やプロセスが適切なのかは分かりません。また、これらの答えが分からなければ、「こういう組織にしようと思うのですが、どう思いますか?」と聞かれても、判断のしようがありません。
さらに言えば、今本当にそもそも組織づくりを優先すべきなのか、それとも他に優先すべきことがあるのかも分かりません。
掲載した質問例は弊社が作成した「ベンチャー・中小企業経営者のための『成長に向けた組織づくり』の前に答えるべき45の質問」からの抜粋です。この「ベンチャー・中小企業経営者のための『成長に向けた組織づくり』の前に答えるべき45の質問」は無料でご提供しています。ご興味ある方は記事末からダウンロードしてご利用ください。
成長に向けたボトルネック(最大の課題)は何なのか
組織づくりを優先すべきかどうかの判断は、上記のような戦略を構成する要素にまつわる質問への答えを踏まえて、以下のような問いを投げかけてみるといいでしょう。
統合的質問
- これまで事業が成長してきた要因は何か
- これから事業を成長させる要因は何だと考えているか
- 今後の事業構造(売上構成・利益構成)はこれまでと同じか
- 今後、事業を成長させる上での最大の課題(ボトルネック)は何か
- 課題への対応方針は何か
質問4への答えが、「特定の業務プロセスを整備すること(仕組み化)」であり、質問5の答えが「早急な組織化が必要である」という結論になったなら、迷うことなく組織づくりを進めていくべきでしょう。
ですが、この答えがまだハッキリしていない、社内で認識が一致していない。または、ボトルネックは違うところにある、という状況なのであれば、組織づくりに手をつけるのは早すぎる可能性があります。それ以前に、個別の質問への答えを考えていない、なんとなくあるけれど曖昧な状態、ということであれば、経営メンバーでまず議論すべきはそちらの方かもしれません。
例えば、まだ顧客を獲得する方法が確立していない、受注に至る勝ちパターンがなく毎回手探りである、という状況であれば、まずは勝ちパターンを確立する方が優先でしょう。勝ちパターンがわかっているから組織化・仕組み化する意味がある(効果がある)のであって、組織や仕組みをつくると勝ちパターンがつくれるわけではありませんから。
表面的なボトルネックに惑わされてはいけない
ボトルネックとなる業務はハッキリしているが、その解決策が組織化・仕組み化なのか自信が持てない、ということもあり得るでしょう。このとき重要なのは、目の前に見えている問題に対して性急に対症療法的に対応するのではなく、一歩引いて全体像を捉え直すことです。
ある業務(プロセス)がボトルネックになっているとき、その原因は往々にして別のところにあります。なぜなら、ビジネスの各プロセスは独立して存在しているわけではなく、相互に関連し合っているからです。ひとつの症状が現れている場所と、その根本的な原因がある場所は、異なることが多いのです。
例えば、契約後の顧客フォローに追われており、このプロセスを仕組み化するとともに、人員を増やす必要があるという意見が出たとします。表面的には、顧客フォローのプロセスがボトルネックに見えるかもしれませんが、実はその原因は間違った顧客に売っているからかもしれませんし、プロダクトの完成度が低いからかもしれません。もしくは、そもそも解くべき課題が間違ってるのかもしれません。顧客が本気で解決したい問題ではないならば、いくらこちらが頑張っても顧客は価値を感じませんから、単に顧客にとって優先度が低い課題だということかもしれません。
問題解決において陥りやすい罠は、目の前の症状に目を奪われ、その場しのぎの対応に走ってしまうことです。表面的なアプローチでは問題の本質的な解決には至らず、むしろ新たな問題を生み出す可能性すらあるので、注意したいところです。
正しい現状分析、課題の言語化を経て、戦略を実装する
上述したような戦略策定のための質問 〜 顧客、収益モデル、プロセス、製品開発などに関する質問 〜 にすべて答えていくのは大変ですが、事業成長のためには、これらの質問に真摯に向き合い、答えを導き出す必要があります。
答えを出していくにあたっては、表面的な事象に惑わされず、課題を特定していく必要があります。そのためには正確な現状分析が必要です。また、課題を特定することと同じくらい大事なことは、課題を言語化することです。人間は、頭の中で考えているだけではうまく認識できませんから、口頭でのやり取りだけでは、すぐに認識ズレが生じてしまいます。戦略を策定していくと同時に、正しい現状分析と課題の言語化を進めることで、今後取るべきアクションが明確になります。
事業を立ち上げ、初期の混沌を乗り越えてきた経営メンバーであれば、さまざまな思い入れがあると思います。だからこそ、次の成長を目指すために、一度全員で冷静に振り返る機会をつくることをお勧めします。日々の業務に追われ、また自社の文脈に深く入り込んだままでは、客観的な視点で自社の課題を見つめづらいからです。まとまった時間を取ったり、場所を変えたりすることで、視点を変えると良いでしょう。そうした環境をつくることで、いつもの視点から離れ、客観的な視点で現状分析、課題の言語化、そして戦略の明確化を進めやすくなります。
それでも、社内のメンバーだけでは議論しづらい、客観的に見るのがむずかしいと感じたら、外部の視点と支援を検討するタイミングかもしれません。
私たちは、まさにこのような課題に特化してご支援しています。戦略策定のプロセスを伴走し、経営チームとともに本質的な問いに向き合い、客観的な視点から課題を言語化し、解決の道筋を描くお手伝いをしています。組織づくりとは、明確になった戦略を実装することです。戦略が明確になれば、自ずとどのような組織をつくっていくべきかは明らかになります。
もし、上記のような質問への答えに自信が持てず、戦略が明確になっていない、組織づくりに進んで良いか分からないとお感じでしたら、ぜひご相談ください。組織づくりという大きな一歩を、慎重かつ戦略的に踏み出すお手伝いをさせていただきます。
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