新規事業を立ち上げるなら、まずは「創って、作って、売る」

新規事業の立ち上げや、アーリーフェーズのスタートアップをご支援しています。そこで気づいたのが、最初にご相談される内容と、ご支援をはじめてから明らかになる本当の課題は、わりと違うということ。

特定の分野(例えばマーケティングとか)について支援してほしいとか、タスク管理や進捗管理をうまくやりたいということでご支援をスタートするものの、それよりも〇〇の方が大事そうですね、となったりするんです。〇〇は、そもそもの提供価値の定義だったり、調達や製造などの別分野だったり、チームや働き方などの組織課題だったりします。

新規事業やスタートアップには「総合力」が求められる

なぜかと考えてみると、やっぱり新規事業やスタートアップには「総合力」が求められるからだと思っています。

事業を成り立たせる要素が、仮にAからEまで5つあるとしたら、AとBはすごくいいんだけど、C、D、Eは全然整ってなかったとしたら、どうなるでしょう。商品はとても良い。パッケージもオシャレ。でも、Webの使い勝手は悪いし、納期もわからないし、支払い方法は限定的。問い合わせ対応も遅いし、梱包もイマイチ。こんなイメージになります。これではリピートしてもらえないですよね。

事業で必要な要素のすべてを一人称で経験してきた人はなかなかいません。すると、どうしても凸凹ができてしまいます。Aは得意なので5点、BとCもなんとか3−4点は取れる。Dは未経験な上に苦手なので1点。Eはそもそもそれが必要なことにも気づいてなかった。

こういう状況になりやすいんだと思います。

新機能や追加サービスと、新規事業やスタートアップの大きな違いがココにあります。

例えば、購買力とか生産管理の仕組みとか販売チャネルとの関係とかブランドとか、そういった組織的な能力を流用できて、製品の機能やサービスの中身だけに注力すればいいのか、そもそも事業に求められる要素すべてをつくる必要があるのか。

事業をひと回しするためには、複数の要素が一定レベル以上になっていることが求められます

事業の基本は、創って、作って、売る

事業の基本は、「創って、作って、売る」です。

バリュー・クリエーション・モデルとかバリュー・プロセスと呼んだりすることもありますが、経営のプロ 三枝匡さんはシンプルに、「商売の基本サイクル」と呼んでいます。(参考:『V字回復の経営』『「日本の経営」を創る』)

創るは、製品開発

作るは、製造(生産)。

売るは、文字通り販売

小さくてもいいので、まずはこれを端から端までひと回しできて、はじめて事業になります。個別の機能分野(マーケティングとかセールスとか)について深掘りする前に、まずはこの全部を平均点レベルにする必要があります。平均点レベルとは、市場のお客様が求める最低レベルという意味です。

カスタマーサクセスがないのは古いのではとか、THE MODELと違うのではとか、そういうのは全部応用編です。応用に入る前に、まずはこの基本を押さえておかないと始まりません。(ちなみに、THE MODELは「売る」の部分にフォーカスした内容ですし、分業する意味があるほど大きく成長したあとの話ですね)

得意にフォーカス、だけでは事業にならない

なぜこんな当たり前とも思える話をわざわざ書いているかというと、ベンチャーやスタートアップ、新規事業チームでは、どうしても「初期メンバーの得意分野」はできてるけど、それ以外がおろそかになりがちだからです。おろそかになっていることに気づいていれば、まだ良いのですが、場合によってはスッポリ抜け落ちていることもあります。

例えば、「作る」ためには仕入れや製造体制が必要ですが、それらの準備が進んでいなかったり、「売る」ための販売チャネルへのアプローチをしていなかったり。

また、SaaSなどのソフトウェアサービスの場合、「作る」の部分が必要ないと勘違いしがちですが、実はオペレーションをつくる必要があります。例えば、アカウントの管理、利用状況の把握、それらに合わせた請求管理など。

「創る」の中身(製品特性)や、「売る」の対象(顧客セグメント)や方法(チャネル)は得意にフォーカスするのが王道ですが、だからといって、事業の基本となる要素が欠けていいわけではありません

新規事業が立ち上がらないパターン

気づくのが遅れると、そのスッポリ抜け落ちた部分が、事業のボトルネックになってしまいます。すると、最初のひと回し、つまり仮説検証ができなかったり、ひと回しできたとしても平均点に達していないので顧客をガッカリさせてしまったり。

創って、作ったけど、売れない

これは技術や製品が強い会社での新規事業や、技術起点のスタートアップにありがちなパターンですね。

作れるし、売れるけど、何を創ればいいかがわからない(仕組みがない)

これは逆に、営業系が強い会社での新規事業でのパターン。過去に一発当てたことがあるけど、それ以降はうまくいかないというケース。

創って、売ったけど、作れない

もっとも筋が良いのはこのパターンです。ここでうまく「作る」仕組みができればスケールしていきますが、放置してしまうと顧客(や販売チャネル)の期待を裏切り、せっかくのチャンスをつぶしてしまうので気を引き締めていきましょう。

ボトルネックを解消するのが経営者の役割

事業として成り立たせるには、つまり市場や顧客に届けるには、どんな要素が必要で、自分たちの足りてない部分、ボトルネックになりそうなのはどこなのかを見極める。これが経営者の役割になります

足りてないから補えばOKという場合もありますが、組織・チームとしての課題があるからうまくできていない、という場合もあります。チームとしての課題がある場合は、スキルが足りないから外から(業務委託などで)補えば解決するかというと、そうもいかないのです。

事業をつくるのと、組織をつくるのは、両輪です。社内の新規事業であっても同様で、事業をつくることだけに注力すればいいわけではなく、社内の他部署との連携が求められる分、スタートアップ以上に組織・チームについての目配りが求められます。

事業の基本に立ち戻ることで、新規事業の立ち上げを成功させる

得意なところはできてるけど、苦手なところがうまく補えていない。だから、事業をひと回しするところまでたどり着かない。たどり着いても、顧客が求める品質にならない。さらには、そこが事業のボトルネックになり、ますます思うように進まない。

こうならないために、スタートアップ経営者や新規事業リーダーは、基本に立ち戻ることで、凸凹を解消し、事業をひと回しするところまでうまく持っていってほしいと思います。

新規事業づくりがむずかしいのは、この事業の基本要素をどういうカタチにすると良いかは、自分たちだけで決められないところ。

何を創るのか、どう作るのか、だれに売るのか。

これらはすべて市場の中での活動なので、市場や顧客とのやり取りをしてみないと何が良いのかわからない。市場に出してみて(ひと回ししてみて)はじめて決まります。

そこで必要になるのが、バリュー・プロポジションです。

次回は、バリュー・プロポジションはどう決めるのかについてお伝えします。