中小企業における「生産性を高める」という正しさに潜む落とし穴について
中小企業や零細事業者の方々とお話しする中で、興味深い共通点に気づきました。業種はまったく違うのに、語られる課題認識と手詰まりになってしまう状況が、驚くほど似ていたのです。
細かい違いはさておき、皆さんの話を総合すると、「生産性が課題なのはわかってるが、どうにもできない」ということでした。
なぜ成長のための手が打てないのか
具体的には、以下のようなロジックです。
利益を伸ばすには、売上を増やす必要がある。
けれど、生産キャパシティや製造に使えるリソースに制約があるので、売上を増やせない。例えば、人手不足、原材料の制限、設備や場所の制約など。
だから、生産性を高める必要がある。
たしかに、限られたリソースで売上を伸ばすには、生産性を高めるしかありません。でも、このロジックには大きな落とし穴があるように思えます。
そもそも、現状の延長線上で生産性を高め、売上を伸ばそうとする発想自体に無理があります。今のやり方がよほど非効率ならいざ知らず、これまでさまざまな工夫をしてきたにもかかわらず、ここからさらに「生産性向上」だけで生産量を増やすことで売上を増やそうと考えるのは無理があります。
こう考えてしまう原因として、大きく2つの思い込みがありそうです。
- 「今のまま」でも生産性は向上できるはず
- 今の「制約」は変えられないし、変えない方がいい
1については、既存の設備や人員でも、何とかして(例:もっと頑張れば、まだ見ぬ解決策が見つかれば)効率を上げられるはず。小さな改善を重ねていけば、効率を上げられるはず。工夫次第で乗り切れるはず。無意識のうちに、こんな風に考えてはいないでしょうか?
2についても、人手不足は仕方がない。設備や原材料の制限・制約は変えられないし、変える対象ではない。そう思い込んでいないでしょうか?
投資できなければ手詰まりになるのは当たり前
前提として、生産性を向上させるには、何らかの投資が避けられないものです。
ところが、多くの事業者さんは、こんな風に考え投資を躊躇しています。
- 人員を増やしたいが、コストが増える(から増やせない)
- 自動化や省力化には投資が必要(だが、リターンが見えないので二の足を踏む)
- 現在のオペレーションは最適化されているから効率化の余地はない
これでは、手詰まりになってしまうのも当然と言えます。
なぜ、このような思考に陥ってしまうかと言えば、これまで工夫で乗り切ってきたという過去の体験、ここまで積み上げてきたがゆえに失敗できないという投資への不安、そして知識と経験が増えたことで頭の中につくられた常識があるからです。
しかしながら、この落とし穴にハマってしまうと、気づかないうちにジワジワと苦しい状況に追い込まれてしまいます。
落とし穴にハマると負のスパイラルへ
- 必要な投資を先送りすることで設備が老朽化する
- 設備の老朽化に加え、採用抑制により、既存社員の負担が増加する
- 既存社員の待遇を改善できず、さらに採用が難しくなる
- 原価や品質維持コストが徐々に上昇し、利益率が悪化する
- 製品・サービスの改善ができず、市場での競争力が落ちていく
この記事を読んでいる方には何としてもこのような負のスパイラルに陥ってしまうことを避けてほしいのです。
「生産性を高める」前にやるべきこと
投資できるようになりましょう。そのために重要なのは、利益を生み出す売上の伸ばし方です。売上は数量と単価の掛け算です。数量も単価も変えなければ、当たり前ですが売上は変わりません。
手詰まりから脱するためのステップはシンプルです。
生産性を高めるためのステップ
- まず利益を増やす
- 投資できる余力を持つ
- 投資を実行する
- 生産性を高める
今のやり方が非効率であれば、初手として生産性を高めるという打ち手もあり得ます。ですが、そうでないなら、今まで効率を高める工夫を十分してきたのなら、いきなり4に飛ぶことはできません。投資をする必要があります。
そのためには、投資できる余力が必要で、まずは利益を増やさないことには何もできません。(もちろん、財務状況によっては、銀行から融資を受けるという手もあります)
利益を増やすために新しい顧客セグメントを見つける
利益を増やすといっても、のんびり進めるわけにはいかないでしょう。では、短期的に利益を増やすためには、どうするか。
選択肢は2つです。
短期的に利益を増やすための選択肢
- 高単価セグメントを取りに行く
- コストを大きく減らす
繰り返しますが、今のやり方がよほど非効率でないかぎり、コストを大きく減らすのはむずかしいでしょう。ですから、新しい手を打つ必要があります。
それが「高単価セグメントを取りに行く」です。具体的には、既存のお客様に「新製品」を売るのではなく、既存の製品を「新しいお客様」に売っていく。それも、高い価格を許容してくれるようなお客様を意図的に探しだし、そこを開拓していくことです。アンゾフの成長マトリクスで言えば、右上ではなく、左下の象限になります。
高単価セグメントの話は誤解されやすいのですが、「高単価商品をつくる」ことと「高単価セグメントを取りに行く」ことは、同じではありません。「高単価の商品」をつくれば良いわけではありません。既存商品(と、ほぼ同じ商品)に高い価値を見出してくれる、高単価を許容する顧客セグメントを見つける必要があります。
また、別の誤解として、「今の顧客を捨てられるわけない」という反応をされる方もいますが(口には出さずとも)、そういうことではありません。むしろ、既存顧客(既存売上)を捨てて利益を増やす方が、もっとむずかしいでしょう。既存売上を維持しつつ、いかに高単価セグメント向け事業というプラスアルファをつくっていくか。かぎられたヒトモノカネをどう配分していくか、その最適解を見つける必要があります。
商品よりも顧客について熱く語れるように
ここで必要なことは、商品を磨く(品質を高める)ことではありません。
大事なのは、お客さんを深く知ることです。
地域に根ざした事業をしていたり、非常に熱心に事業に取り組んでいる方であっても、お話ししてみると、意外なほどお客さんについての話が出てこないことが多いのです。
「今のお客さんを大事にしたい(から、やり方を変えるのはむずかしい)」と言っているにもかかわらず、実はお客さんのことを知らなかったりします。お客さんの顔は見えているのですが、お客さんが商品を実際にどう使っているかは知らない。ご自身が手がけている事業や商品についての話はすごく熱く語れるけれど、お客さんについては熱く語れない。
自分の商品以上に、買ってくれているお客さんについて熱く語れるようになりましょう。
お客さんは、どんな場面で商品を使っているのか。
1ヶ月、1週間、1日の中でいつ使っているのか。使っていないときはどうしているのか。
どこが良いと思っているのか。
こういう話を、あなたが情熱を込めて、こだわりを持ってつくっている商品と同じくらい、熱く語ってほしいのです。
顧客起点の成長戦略への第一歩
そのためにも、まずは皆さんの商品が買われてる瞬間以外にお客さんと接する機会をつくりましょう。使われている瞬間、消費されている瞬間を見に行きましょう。
次に、「お客さんにとって、ウチの商品は何がいいんですか?」と聞いてみましょう。お客さんもすぐには答えられないかもしれませんから、いろいろな観点から深掘り質問を繰り返しましょう。
「なぜ、それがいいことになるんですか?」
「今までとどれくらい違うんですか?」
「それは、お客さんにとってどういう意味があるんですか?」
「チームや会社全体にとって、どれくらい大事なことなんですか?」
おそらく、皆さんが想像もしてなかったような答えが返ってくるでしょう。きっとたくさんの発見があるはずです。
その発見から、新たな利益を生み出す糸口を見つけます。皆さんが想像していた以上に大きな価値を感じているお客さんを見つけます。そのお客さんと似たようなお客さんが一定数いることがわかったら、高単価セグメントを発見した可能性があります。そのお客さん(顧客セグメント)向けに特化した商品やサービスを提供できないか、特化した売り方ができないか。こうして新たな利益を生み出す道筋を探っていきます。
利益を出すことができたら、次の手が打てます。設備投資をしたり、採用したり、社員の待遇を上げたり、融資を引いたり。
強い商品を持つ中小企業こそ、顧客起点での成長余地が大きい
私たちがお勧めする「顧客起点の成長戦略」では、このような地道なアプローチを重視しています。流行りの手法も紹介しませんし、分厚いレポートもつくりませんが、顧客を知ることについては妥協せずに深掘りしていきます。すでに買ってくれている人、使ってくれている人のことを知らずして、未来のお客さんに魅力を伝えることはできませんから。
これまでたくさんの工夫を重ねて、商品を磨きに磨き、価値の高い商品をつくり上げてきた中小企業や零細事業者こそ、「顧客起点」によって成長できる大きな可能性があると信じています。
※注:逆に、商品自体の価値が弱い場合は、まずその改善から始める必要があります。価値の高い商品を持ち、お客さんからの強い支持を得ている中小企業や零細事業者さんとの会話をもとに考察しています。