ベテランは「教えられない」、若手は「質問できない」――見えないギャップを埋める計画のすり合わせ
「若手の手が止まっている」「ベテランのノウハウが伝わらない」
多くの組織で聞かれる悩みの根っこには、ベテランと若手の間にある「見えないギャップ」があります。本コラムでは、このギャップを可視化し、「教える」と「任せる」を同時に実現する「計画のすり合わせ」という方法をご紹介します。
「速さの差」の正体は、作業速度ではない
どんなチームにも、経験豊富なベテランと経験の浅い若手がいます。年齢の問題ではなく、ある仕事についての経験値の差は必ず存在します。
ベテランは、頭の中に経験が蓄積されているので、「この仕事はこうやれば終わる」という道筋――「あとはやるだけ状態」――を瞬時に作れます。だから計画が圧倒的に速く、仕事がどんどん進みます。
一方、若手は経験が少ないため、毎回ゼロから道筋を組み立てなければならず、計画に時間がかかります。管理職の目から見れば、チームの中で「車輪の再発明」(わかっていることのために、もう一度努力すること)が頻繁に起きている状態です。
つまり、両者の差の正体は、1つひとつの作業速度ではなく「経験の蓄積」です。裏を返せば、この蓄積さえ共有できれば、若手でもベテラン並みに仕事を速く進められるようになるということです。
組織に生まれる「見えないギャップ」
ところが実際には、経験の共有は簡単ではありません。多くの組織が、次のような課題を抱えています。
- 若手は「教わっていない・経験していない」から、わからず手が止まる
- ベテランは無意識にできてしまうので、「何を教えればいいか、わからない」
- 仕事を進めること自体に時間と労力を使い切り、品質向上やナレッジの蓄積まで手が回らない
さらに厄介なのは、若手は「何がわからないのかもわからない」ため、うまく質問することすらできない点です。お互いに相手の頭の中が見えないまま、ギャップは埋まらずに残り続けます。
その結果できあがるのは、若手にとって働きにくい職場です。どの会社も人材の確保に苦労しているいま、若手が心折れて辞めてしまうことのダメージは計り知れません。また、仕事の平準化が進まなければ、組織としての効率化も利益率の改善も進みにくくなります。
タスクリストを並べて比較する――「計画のすり合わせ」
このギャップを埋める道具として使えるのが「計画モード」、つまり仕事を始める前にゴールとそこまでの道筋をタスクとして書き出すことです。これを、上司と部下が認識を合わせるためのツールとして使います。
やり方はシンプルです。同じ仕事・案件について、上司(ベテラン)と部下(若手)がそれぞれ、最初の段階から完成までのステップを書き出してみます。すべてのタスクを書くのが大変であれば、5個か10個程度のマイルストーン(大きな目安)でも構いません。そして、2つのリストを並べて比較します。すると、ギャップが一目瞭然になります。
- ベテランのリスト:ゴールが明確。マイルストーンがはっきりしている。やるべきことが具体的に書けている。注意点やリスクを想定した上でタスクが書かれている
- 若手のリスト:抜け漏れや偏りがある。解像度が粗く、曖昧な表現が多い。リスクや前提条件が想定できていない
興味深いのは、リストの中身には大差がないのに「順番」が違うケースです。ベテランは「これを先にやっておけば待ち時間がなくなる」「後で慌てなくて済む」とわかっているので、そのタスクが前に来ています。若手はそこがわからないので、後ろに置いてしまう。実は、タスクの順番にこそ、効率よく仕事を進めるノウハウやコツが現れるのです。
実行後に介入するより、実行前にすり合わせる
このすり合わせをせずに実行に入ると、どうなるでしょうか。若手は途中で「理解できていないこと」に気づき、手が止まります。そのころには期限が迫っていて、上司にも細かく教える余裕がありません。
結果として、上司や先輩が介入して自分でやってしまう、「いいから、これやって」と雑な対応になる――。若手の成長の機会は失われ、上司は忙しいまま、若手はモチベーションを下げる。誰にとってもよいことがありません。
事前にすり合わせておけば、状況は一変します。
上司は背景や前提を説明でき、「この段階では前回のこの資料が参考になる」と情報を渡せて、「なぜこれを先にやるのか」という注意点も伝えられます。部下のリストを見れば「どこがわかっていないか」が明確にわかるので、的確に指導できます。
部下は仕事への理解が深まり、「このステップで進めればゴールにたどり着ける」という自信を持って、実行モードで迷わず手を動かせるようになります。
計画のすり合わせとは、部下の「あとはやるだけ状態」を一緒に作る作業です。すり合わせが済めば、「では、あとは任せたよ」と言えます。つまり、「教える」と「任せる」を同時に実現できるのです。上司は介入が減って自分の仕事に集中できるようになり、部下は「なぜそうするのか」まで理解した上で動くので、次の仕事への応用も利くようになります。
「保管・再生」と組み合わせて、チームのルールにする
別のコラムでご紹介した「保管・再生モード」(一度やった仕事の経験を丸ごとテンプレートとして残し、次回は再生するだけで終わらせる技術)と組み合わせると、効果はさらに高まります。
チームに保管されたテンプレートがあれば、すり合わせは「この仕事はあれと似ているから、あのテンプレートをベースにしよう」から始められます。すり合わせの時間は大幅に短くなり、場合によってはすり合わせ自体が不要になります。若手も「今回の仕事は前回とどこが違うのか」をピンポイントで質問できるようになり、すぐに「再生」に入れるので、チーム全体の動きが加速します。
「仕事の前には計画をすり合わせる」「終わったら保管する」。この2つをチームのルールにすれば、計画→実行→保管→再生の循環が回り始め、チーム全体の生産性が高まっていきます。
まとめ
- ベテランと若手の速さの差は、作業速度ではなく「経験の蓄積」の差
- 同じ仕事のタスクリストをそれぞれ書き出して比較すれば、見えないギャップが可視化される
- 事前のすり合わせは「教える」と「任せる」を同時に実現し、上司の介入を減らして部下の自律を促す
まずは次の案件で、部下と一緒にマイルストーンを書き出すところから試してみてください。
Prodottoでは、管理職がチームで成果を出すための仕事の進め方を、研修・ワークショップとして提供しています。
まずは「チームの仕事力セルフチェックシート」でご自身のチーム力を診断してみてはいかがでしょうか。


