「これ、どうやるんだっけ?」をなくす――経験を資産に変える「保管・再生モード」
一度やったことのある仕事なのに、また資料を探すところから始めている。前回と似た案件なのに、思ったより時間がかかってしまう――。多くの職場で起きているこの現象の正体は、「車輪の再発明」です。
本コラムでは、一度やった仕事の経験を丸ごと“資産”に変え、次は「再生」するだけで終わらせる「保管・再生モード」という仕事術をご紹介します。
一度やった仕事が、なぜ速くならないのか
私たちの仕事の多くは、まったく新しい仕事ではなく、「前と似た仕事で、一部だけが違う」ものの繰り返しです。ところが、前にやった仕事のやり方を記憶だけに頼っていると、時間の経過とともに確実に消えていきます。
「あー、これ、どうやるんだっけ?」
一度やった仕事なのに、思ったように終わらない。抜け漏れが発生したり、品質が落ちたりする。
つまり、前回の経験を100%フル活用できていない状態です。しかも脳の記憶は簡単に歪められたり、美化されたりするもので、「最後は何とかなったよね」という印象だけが残りがちです。
「車輪の再発明」問題
英語の慣用句に「車輪の再発明」という言葉があります。わかりきったことのためにムダな努力をする、しなくてもよいことをする、という意味です。
- もう一度調べ直したり、同じところでつまずいたりする
- 前回の資料を探すところから始まる
- 「去年はどうやったかな…」と記憶をたどる
これらはすべて「車輪の再発明」です。せっかく自分で一度経験したのに、その経験を活かせていないのです。
経験を丸ごと保管し、次回は「再生」するだけ
そこで身につけたいのが「保管・再生モード」です。
私は、仕事を速く進める頭の使い方として、「計画モード(終わる計画を作る)」「実行モード(迷わず手を動かす)」「中断モード(保存する)」という3つのモードの切り替えを提唱しています(詳しくは拙著『「今日も仕事が終わらなかった」はなぜ起きるのか?』〈ダイヤモンド社〉で解説しています)。
保管・再生モードは、この3つを土台にした応用編にあたります。
計画・実行・中断のモードを使って仕事を終えると、手元には多くのものが残っています。
- 計画モードで準備した、アクション動詞(手が動く動詞)で書かれたタスクリスト
- 実行と中断を繰り返す中でアップデートされた、実際のタスクとその順番
- 気をつけるべきポイントのメモ、参考にした資料、アウトプット
この「あとはやるだけ状態」で残った一式を丸ごと「保管」しておき、次に似た仕事が来たら「再生」するだけで終わらせる。それが保管・再生モードです。一度そのやり方でゴールまでたどり着いた実績があるので、再生すれば終わることは実証済み。だから圧倒的に速いのです。
料理のレシピで考える
計画モードで作ったタスクリストは、初めて作る料理のレシピのようなものです。まずは書かれた通りに作ってみる段階です。実際に一度作ってみると、「分量を自分好みに変えた」「家にない調味料はこれで代用した」といったメモが残った「改良版レシピ」ができあがります。改良版レシピがあれば、次回は同じ味を確実に再現できますし、アレンジ版も作りやすくなります。
仕事も同じです。一度終えた仕事のタスクリストは、当初の計画よりはるかに完成度の高い「改良版レシピ」になっているのです。
テンプレートは、スピードと品質を同時に高める
保管の具体的なやり方は、「あとはやるだけ状態」の仕事をそのまま、自分用の“最速マニュアル”=テンプレートとして残すことです。テンプレートの有無で、仕事は次のように変わります。
テンプレートがない場合:
- 前回の資料を探すところから始まり、過去のメールや記憶をたどる
- それでも抜け漏れや手戻りが発生する
- 細かい確認や資料探しのストレスが重なり、同じ仕事なのにミスが起きやすい
テンプレートがある場合:
- やり方、前回のアウトプット、コツや注意点まで残っているので、自信を持って進められる
- 計画は「前回と違う部分の修正」だけで済むので、劇的に速く終わる
- 終わることが実証されているので、ストレスや不安から解放される
そして重要なのは、速くなるだけではないことです。余裕が生まれるので、その時間と頭の力を「質を高める」ことに使えるようになります。「マニュアル」という言葉を嫌がる方は少なくないのですが、テンプレートとは、経験を資産に変える仕組みなのです。
「強くてニューゲーム」状態で働く
最近のゲームには、クリアした後、クリア時点のステータスやアイテムを引き継いで最初からプレイできる「強くてニューゲーム」という仕組みがあるそうです。保管・再生モードは、仕事の世界でこの「強くてニューゲーム」を実現する技術です。
仕事ができる人は、手を動かす作業が速いのではなく、完成までの道筋を描く「準備」が速いのです。保管されたテンプレートが増えれば増えるほど、新しい仕事が来ても「これはあの仕事の応用だな」と準備が一瞬で終わるようになり、仕事のスピードは指数関数的に上がっていきます。手戻りも、切り替えのロスも、「前に考えたことを思い出す」時間も一切なし。いつでも「最高に頭のいい自分」の状態で働けるようになります。
まとめ――仕事が終わったら「保管」する
- 「車輪の再発明」をやめ、一度やった経験を100%活かす
- 仕事を終えたら、「あとはやるだけ状態」の一式を丸ごと保管する
- 次は「再生」するだけ。計画が瞬時に終わり、質を高めることに時間を使える
まずは、繰り返しの多い仕事をひとつ選んで、終わったときにタスクリストとメモを捨てずに「次回用テンプレート」として残すところから始めてみてください。
なお、この保管・再生モードは、チームで共有するとさらに大きな効果を発揮します。ベテランと若手のギャップを埋める方法、属人化を解消する仕組みについては、別のコラムでご紹介します。
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